誰しもがスマホを持つ時代になり、「時間はスマホで確認できるから腕時計は着けない」という人が増えています。しかし、近年では時刻を知るためではなく、嗜好品として機械式腕時計の需要が増加傾向にあります。

デジタル化が進む今、機械式腕時計に人気が集まる理由はなんでしょうか。その秘密を知るためにも、19世紀初頭から始まる腕時計の歴史をひもといていきましょう。

腕時計の歴史の始まりは1806年

時計の歴史は、紀元前3500年ごろの「日時計」が始まりとされ、その後は砂時計・火時計・水時計・振り子式時計など徐々に進化していきます。

持ち運べる時計としては、1500年頃にピーター・ヘンラインが開発した「懐中時計」が広まりました。懐中時計は、実用性の高い腕時計が開発される19世紀まで長きに渡り使われます。

再び時代が動き出すのは1806年、フランスの皇帝ナポレオンがパリの時計宝飾師二トーに腕時計をつくらせます。これは皇妃であるジョセフィーヌのために創られたため、小さな時計にブレスレットを装着しただけの簡素なものでした。

当時は小さなサイズを実現できるほどの技術が発達しておらず、非常に精度の低いものしか作れなかったため、高貴な女性専用の宝飾品として扱われ腕時計としては普及しませんでした。そのため、懐中時計が主流の時代が続きます。

腕時計の初めての量産は軍事用だった

懐中時計はポケットから出して、蓋を開けるという手順を踏まないと時刻を確認できません。しかし、懐中時計を使うのは、貴族など時間に余裕のある上流階級だけだったため、改良する必要はありませんでした。

時計の主流が、懐中時計から腕時計に移り変わった契機は「戦争」です。1880年、ドイツ皇帝が海軍将校用に2,000個の腕時計を、ジラール・ペルゴー社に製作させました。これが、腕時計量産の始まりだとされています。

1840年頃から徐々にモールス信号が使われ始め、多数の部隊が同時に侵攻するといった戦略が可能になり、タイミングを合わせるための「時刻」が重要になってきたのです。

一瞬の油断が死につながる戦場では、ポケットから懐中時計を出す余裕などありません。そのため、腕に巻き付けておき瞬時に目視できる腕時計の需要が高まりました。

また、懐中時計は片手が塞がってしまいますが、腕時計は常に両腕が使えるというメリットもあり、兵士にとっては欠かせない装備になりました。

軍用で精度が上がった腕時計

1914年に開戦した第一世界大戦では、飛行機・化学兵器・通信といった新技術が開発されたため、腕時計にも高い精度が求められるようになります。特に飛行機の影響を強く受け、腕時計の進化が進みます。

開戦初期は偵察機としての利用のみでしたが、すぐに機関銃や爆弾を実戦で使うことが増え、タイミングを計るために狂いのない時計が必須になりました。そこで開発されたのが、ストップウォッチ機能が使えるクロノグラフ腕時計です。

スイスの時計メーカーであるブライトリングは、大戦の真っ只中である1915年にクロノグラフ腕時計を開発しました。時刻だけでなく経過時間も計測できるクロノグラフは、一気に広まり生産数も戦前に比べて飛躍的に増加することになります。

アメリカではハミルトン社がアメリカ軍の時計納入業者になり、軍用時計の生産を加速させました。それまでは高価な存在であった腕時計ですが、戦争によって生産技術が発達したことで、徐々に生産コストが下がっていきます。

自動巻き腕時計で腕時計が進化

1926年にスイスのフォルティス社から発売された、半回転ローター式の「自動巻き腕時計」は懐中時計から腕時計に移り変わったこと以上に、時計の歴史の中でも大きな出来事でした。

自動巻きが登場する以前の「手巻き式」では、最低でも1日に一度は動力源であるゼンマイを巻く必要がありました。これに対して「自動巻き式」は、腕に着けているだけで常にゼンマイを自動で巻き上げてくれるという画期的な仕組みです。

その後、ロレックスなどの主要メーカーが独自に技術開発を行い、1930年ごろには腕時計が懐中時計の生産数を上回るようになります。電池式の腕時計に慣れ親しんでいると、自動巻き腕時計は「古いもの」のように感じますが、実は100年の歴史も無いのです。

ちなみに日本国内に限定してみると、国産初の腕時計は1913年にセイコーの「ローレル」、国産初の自動巻き腕時計はセイコーの「セイコーオートマチック」となります。

第二次世界大戦でミリタリーウォッチとして進化

第一次世界大戦では懐中時計から腕時計へと進化しましたが、第二次世界大戦では過酷な環境でも正確に時を刻み続ける「ミリタリーウォッチ」としての性能が磨かれます。

時刻精度の高さはもちろんのこと、水中での耐久性や耐衝撃性能といった高い性能が求められました。反対に、極限までコストを削ぎ落とした、使い捨てとも言えるミリタリーウォッチの開発も進みます。

第二次世界大戦中は、スイスの「オリス」や「ブライトリング」、イタリアの「パネライ」など各国の時計メーカーが、こぞって軍用の腕時計を続々と開発競争を繰り広げました。

また、ブライトリングの「クロノマット」のように、純粋な腕時計の性能だけではなく「回転計算尺(航空計算尺)」という機能を搭載した腕時計も登場しました。

回転計算尺は、難しい掛け算や割り算を一瞬で計算できる画期的な発明でした。ベゼルを回して数値を確認するだけで、距離の単位である「km」「mile」「ノット」を換算することも可能です。

パイロットは回転計算尺を使って、残り燃料で飛べる距離や目的地までの時間を計算していたと言われています。

クォーツショックで腕時計の価格が低下

自動巻き腕時計が一般層まで広く普及しましたが、1969年世界初の量産クオーツ腕時計であるセイコー「アストロン」の発売がきっかけに状況は激変します。

安く、正確で、衝撃にも強いクオーツ式腕時計は、機械式腕時計を機能面で圧倒し、腕時計の主流はクオーツ式に変わりました。

セイコーのアストロンが、クオーツ式を世界に広められた理由は大きく分けて3つあります。

  • 「セイコースポーツマチック・ファイブ(以下ファイブと略す)」でブランド力を高めていた
  • 1964年に行われた東京オリンピックの影響
  • ムーブメントの外販を開始した

ファイブはセイコーが1963年に発売し、世界中で爆発的なヒット商品となった自動巻き腕時計です。

自動巻き腕時計は値段が高かったので、実用品よりも宝飾品として扱われていましたが、安く、衝撃に強く、防水性能も高いこの時計はファイブは、発展途上国にも実用性の高い腕時計として受け入れられました。

また、セイコー社が東京オリンピックで各競技のタイム計測を担当した影響もありました。大会では1/1000秒まで計測可能な、機械式よりも精度の高いクオーツ式が使われ、「世界のセイコー」という言葉を広めることとなります。

さらに、セイコーが腕時計の心臓パーツであるムーブメントを他社へ外販を開始し始め、腕時計の値段がグッと下がりました。

ムーブメントは非常に重要なパーツであるため、時計メーカーが自社で開発・製造を行い出来る限り外部へ情報が漏れないようにしていました。

これらの腕時計の啓蒙活動が功を奏し、1980年に日本の腕時計生産数は時計大国スイスを上回ります。スイスの時計メーカーがクオーツショックから回復するのは、1983年に世界最大の腕時計グループである「スウォッチ」が設立されてからです。

スウォッチグループの特徴は、数多の企業に分散していた人材・資金・マーケティングを数社に集約すること。スイスの時計メーカーは、各社が競争することで発展してきましたが、日本やアメリカのように大きな力を持った数社だけが市場を独占する方法に舵を切ります。

この戦略が功を奏し、世界でも指折りの時計メーカーになっているのが、昔からロレックスと並び高級腕時計の二大巨塔と呼ばれる「オメガ」です。

携帯電話の出現で機械式腕時計が復活

クオーツ式は月に数秒の誤差、機械式腕時計は日に数秒の誤差、時計としての性能だけを見れば機械式腕時計を選ぶメリットは皆無に近いでしょう。

腕時計はさらに進化し、電波時計が登場します。1日に一度(もしくは数回)電波を受信するため、本当に一秒の狂いもない腕時計が、1万円程度で手に入る時代になりました。

そして、常に持ち歩く携帯電話(スマホ)の出現により、「時刻を知るために腕時計を持つ必要がなくなる」というところまで到達してしまいます。

しかし現在では、ファッションとして、美しい内部機構を楽しむ嗜好品として、数十年に渡り時を刻む相棒として、機械式腕時計の人気が復活しています。

スマホやパソコンといったデジタルが支配する時代だからこそ、機械式腕時計が持つアナログな魅力が人々を魅了しているのです。

もちろん、機械式腕時計には様々なデメリットがあります。

  • ゼンマイの巻きが甘いと止まる
  • 衝撃に弱く、1mの高さから落としても壊れる可能性がある
  • 数年に一度、数万円かかるオーバーホールが必須
  • 質の良いものは非常に高価である
  • 磁気に弱くスマホに接触させるのも危険

このような繊細さに対して、儚さと愛しさを感じさせてくれるのが機械式腕時計の最大の魅力です。機械式腕時計は実用品ではなく、「趣味」として生活に取り入れていきましょう。

腕時計の歴史 まとめ

  • 時計の歴史は紀元前3500年ごろ、腕時計の歴史は1806年に始まる
  • 第一次世界大戦を契機に腕時計が急速に広まる
  • 自動巻き腕時計が登場し、ゼンマイを巻く手間がなくなる
  • 第二次世界大戦では、高精度かつ耐衝撃性能の高いミリタリーウォッチが完成
  • クオーツ式腕時計の発売で価格が下がり、腕時計は誰でも手が届く存在になる
  • 社会のデジタル化が進み、機械式腕時計のアナログ感が再評価される