高級時計の定義はさまざまですが、ミニッツリピーターを搭載した腕時計はその条件を満たしていると言えるでしょう。

機械式時計の長い歴史の中で星の数ほどの機構が生み出されてきましたが、ミニッツリピーターは3指に入るほどの超複雑機構。名門ブランドが手がけるミニッツリピーター搭載時計は、限られた成功者にしか手にすることができない憧れの存在です。

ここでは、ミニッツリピーターの特徴や搭載モデルについて紹介します。

ミニッツリピーターとはなにか

ミニッツリピーター(Minute Repeater)は、鐘(音)を鳴らすことで現在時刻を知らせる機構のことです。

現代のデジタル時計に搭載されているバックライト機能や、スーパールミノバのような蓄光塗料が開発されるはるか昔、暗闇で時計の時刻を確認する方法は存在しませんでした。

人々が懐中時計を使っていた時代は今のように電気も普及していなかったため、ミニッツリピーターは、「3つの音色」を使い分けて時刻を告げるように発明されました。

音色の種類は「低音(時)」「高音 + 低音(15分)」「高音(分)」の3つで、それぞれの回数から時刻を知ることが可能。例えば3時33分にミニッツリピーターを作動させた場合、低音が3回(3時)、高音 + 低音が2回(30分)、高音が3回(3分)鳴るという仕組みです。

ミニッツリピーターは、多くのパーツと極めて高度な技術力が必要です。

4年に1度のうるう年の調整などを自動的に行うカレンダー機能の「パーペチュアルカレンダー」、時計の姿勢差を改善して高精度を保つ「トゥールビヨン」と並び、世界三大複雑機構とも称されています。

ミニッツリピーターは時計師・ブレゲが腕時計用に小型化した

ミニッツリピーターが開発されたのは17世紀頃と言われています。その後、稀代の天才時計師アブラアン・ルイ・ブレゲが小型化に成功します。

それまでのミニッツリピーターはハンマーがケースを直接叩く「トック式」と呼ばれるものでした。ブレゲは1783年に、スティール製のワイヤ状のゴングをムーブメントの外周に沿って配置するという画期的な方式を発明しました。

従来よりも薄く作ることを可能とし、さらに音色も澄んだ響きを鳴らすことができたため、以降多くの時計師がブレゲのゴング方式を採用するようになりました。

腕時計に初めて搭載されたのは1892年のこと。ルイ・ブラン&フィルズ社、現在のオメガが初の腕時計型ミニッツリピーターを発表しました。

現在のミニッツリピーターは、音で時刻を知らせるという本来の用途よりも、一般的な機械式時計にはない複雑な造りに惹かれて購入する人が多いです。

ミニッツリピーターで有名なブランド

ミニッツリピーターは数多くの部品が必要となるだけでなく、組み立てるには限られた職人による非常に高度な技術が必要です。

豊富な経験を持つ時計職人でも、1台のミニッツリピーターウォッチを制作するのに200~300時間を費やします。

そのため、ミニッツリピーターを搭載した腕時計は数百万から数千万の値段が付けられることも珍しくありません。

名門ブランドが手がける腕時計で、他の機構も兼ね備えた製品ほど価格は高くなります。

音を鳴らすための鐘とハンマーが大小1つずつ付いているのがミニッツリピーターの通常の仕様ですが、プッシュボタンやスライドピース、レバーなどの操作はブランドや製品によって多種多様です。

パテックフィリップもミニッツリピーターで有名

パテックフィリップは、世界3大時計ブランドの一つに数えられるスイスの時計メーカーです。

顧客に王侯貴族や多くの偉人を抱えることから「時計界の王者」とも呼ばれるパテックフィリップ。雲上ブランドと言われる世界3大時計の中でも、頭一つ抜けた存在であると評価されています。

19世紀末に一度はオメガによって腕時計に搭載されたミニッツリピーターでしたが、その後1960年代初めごろまで、ミニッツリピーター製作の伝統は失われていました。

忘れ去られた機構になりつつあったミニッツリピーターを現代に蘇らせたのが、他でもないパテックフィリップなのです。

ブランドの前社長フィリップ・スターン氏は、1989年、創業150周年記念事業の一環としてミニッツリピーターの制作を再開しました。それと同時に、現行の腕時計コレクションに搭載することを決定しました。

1970年代〜1980年代半ば頃まではクォーツ時計の全盛期で、機械式時計にとっては暗黒の時代でしたが、パテックフィリップはブレずに機械式ムーブメントを制作しました。

時計界の王者が新型のミニッツリピーターやパーペチュアルカレンダーを発表したことが、機械式時計復活の援護射撃になったと言われています。

現在、パテックフィリップではグランドコンプリケーションコレクションの「5207/700P」などのモデルにミニッツリピーターを搭載しています。

このモデルでは、2本のゴングを搭載したミニッツリピーターがケースに統合されたスライドピースで起動します。

価格は公表されていませんが、5千万円はゆうに超えるであろう世界最高峰の1本です。

オーデマピゲもミニッツリピーターで有名

オーデマピゲも、世界3大時計ブランドの一つとして称される老舗時計メーカーです。

ジュール・ルイ・オドマールとエドワール・オーギュスト・ピゲによって1875年に設立されたこのブランドは、創業当初からミニッツリピーターを制作しました。

1890年にはミニッツリピーターと永久カレンダーがついた女性用懐中時計を発売して話題を呼び、翌1891年には世界初となるミニッツリピーター付の最少ムーブメントを発表しました。

高貴なドレスウォッチや宝飾時計だけでなく、スポーティな腕時計も手がけているのがこのブランドが長く愛され続ける理由の一つです。

時計界のピカソとして知られるデザイナーのジェラルド・ジェンタ氏がデザインした「ロイヤルオーク」は、独創的なステンレススチール製のケースとブレスレットで、ラグジュアリースポーツウォッチという新たな分野を開拓しました。

2016年には、その名作ロイヤルオークにミニッツリピーターを搭載したモデルを発表しました。

「ロイヤルオーク コンセプト スーパーソヌリ」と名付けられたその腕時計は、ミニッツリピーターを主役に据えながら、トゥールビヨンとクロノグラフを組み合わせコンプリケーションモデルとして注目を集めました。

価格は6400万円と、一般人には到底手が届かない、文字通り雲の上の腕時計です。

国産でもミニッツリピーターがある

スイスの雲上ブランドだけでなく、日本の時計メーカーもミニッツリピーターの腕時計を製造しています。

国産メーカーの凄い点は、クォーツムーブメントにミニッツリピーター機能を搭載することで、機械式時計に比べてコストを圧倒的に抑えていることです。

天賞堂もミニッツリピーターで有名

天賞堂(てんしょうどう)は、ジュエリーや時計、鉄道模型などを手がける日本のメーカーです。

江戸時代末期の1878年に創業され、戦前の銀座本店は夏目漱石の小説にも度々登場する由緒正しき老舗です。

その天賞堂が制作するミニッツリピーター搭載の「グランドコンプリケーション」シリーズは、ミニッツリピーターだけでなくムーンフェイズやクロノグラフ、パーペチュアルカレンダーといった様々な複雑機構を備えています。

国産クォーツムーブメントを搭載しており、文字盤のクラシックな仕上げも秀逸です。

機構と美しさだけ見れば数百万円と言われても納得してしまいそうになりますが、価格は約10万円と驚愕のコストパフォーマンスを誇ります。

シチズンもミニッツリピーターで有名

1918年創業のシチズンは、日本人なら誰もが知るであろう国産時計メーカーです。

腕時計を自社で一貫製造するマニュファクチュールで、世界的にも有名なブランドです。

どちらかと言えば低価格な腕時計のイメージが持たれやすいシチズンですが、「カンパノラ」はその印象を覆す高級仕様のシリーズです。

「宙空の美」というデザインコンセプトのもと、究極のメカニズムと美しさを持つ独創的な製品を展開しています。

そのカンパノラのグランドコンプリケーションモデル「深緋(こきあけ) CTR57-1001」は、ミニッツリピーター、ムーンフェイズ、パーペチュアルカレンダークロノグラフの4大複雑機構を搭載。

クォーツムーブメントを採用しており、最高峰の機構を搭載しながら33万円という価格設定を実現しています。

ミニッツリピーターについてのまとめ

    • ミニッツリピーターは音で時刻を知らせる機構。懐中時計の時代に発明され、天才時計師ブレゲが小型化。19世紀末にオメガによって腕時計に搭載されるようになりました。
    • パーペチュアルカレンダーやトゥールビヨンと並んで世界三大複雑機構に数えられるミニッツリピーターは、完成までにベテラン時計師でも200~300時間が必要。パテックフィリップやオーデマピゲなどの雲上ブランドが手がけるミニッツリピーターモデルは、数千万円の値段で販売されています。
    • 日本メーカーもミニッツリピーターの腕時計を制作。クォーツムーブメントで製造することで価格を抑えることも実現しており、コンプリケーションウォッチとしては破格の20万円〜30万円で購入できるモデルも展開しています。