暗い場所でも文字が光る腕時計は便利ですね。今や夜光の腕時計はごく当たり前の機能になっていますが、現在に至るまでには大きな変遷がありました。

今回は、夜光の腕時計について紹介します。

ラジウムの発見で夜光塗料が誕生

19世紀末にキューリー夫妻が「ラジウム」を発見しノーベル賞を受賞したことは有名ですが、ラジウムと夜光塗料との関係を知っている人は多くないでしょう。

ラジウムは放射線物質ですが、このラジウムが発する放射線が蛍光物質に反応して光を発することが分かったのです。つまり、夜光塗料が誕生したきっかけは、キューリー夫妻の発見でした。

ラジウムを使用した夜光塗料は、ミニタリーウォッチには欠かせないものでした。時間を確認するために懐中電灯などを使うと敵に気づかれてしまうからです。

暗い中でも文字盤が見える夜光の時計は兵士たちに重宝がられました。しかし、ラジウムを使用した夜光時計は、そう長く続きませんでした。

その理由は、ラジウムが発する放射線の人体への影響です。放射線は一定量を超えて浴び続けるとヤケドを引き起こしたり、体内の細胞を破壊する可能性があります。

このような人体への影響を回避するために、ラジウムを使用した夜光塗料の製造は中止されたのです。

初期のロレックスの時計にもラジウムを使用したものがありました。当時の文字盤を制作していた職人の中には、歯の骨が破壊されたなどの健康被害が報告されていたそうです。

ラジウムからトリチウムへ

健康被害の危険性から夜光塗料には「トリチウム」が使われるようになりました。トリチウムも放射性物質ですが、ラジウムに比べるとはるかに放射線量が少なく安全性も高くなっています。

ちなみに日本では、トリチウムではなくプロメチウムという放射性物質を使用した夜光塗料が1960年に開発され国産の時計に使用されていました。

ラジウムやトリチウムなどの放射性物質を使った夜光塗料を「自発光塗料」と呼びます。

自発光塗料は、太陽や照明などの必要がなく自ら発光する塗料のことです。太陽や照明などの光を溜めて発光するのが「蓄光塗料」です。また、車のライトなどに反応して光るのが「蛍光塗料」です。

自発光塗料は、自ら発光するので暗闇に長時間いても文字盤をしっかり認識できますが、蓄光塗料や蛍光塗料では不可能です。

ミリタリー時計には自発光塗料は最適な塗料でしたが、放射性物質に対する人々の不安は大きく、時計メーカーも放射性物質を使わないでも効果的な塗料を求めていました。

日本企業が開発した「ルミノバ」

1993年、日本の根本特殊化学株式会社が画期的な蓄光塗料「N夜光・ルミノーバ」を開発しました。

この放射性物質を使用しない夜光塗料は、従来の蓄光塗料に比べ10倍明るく10倍の時間で光り続けるという驚愕的なものでした。

また自発光塗料に使われているトリチウムは約12年で放射線の「半減期」になるので、発光しなくなります。一方蓄光塗料は半永久的に使えます。安全で半永久的に使える蓄光塗料は通称「ルミノバ」と呼ばれ、瞬く間に世界の時計に使用されるようになりました。

根本特殊化学株式会社は、時計の文字盤に夜光塗料を印刷・塗装する専門のグループ会社を次々と設立し、200年にはルミノバは世界の時計産業におけるシェア100%を記録しました。さらに、蓄光塗料は避難誘導標識などさまざまな製品に利用されています。

ミリタリーウォッチの潮流

ルミノバを使用した時計の発光時間は、約3時間~5時間です。

一般的な生活サイクルの中では長時間暗い中にいることはまずないので支障はありませんが、戦場などでは状況が異なります。暗闇の中に数日間いる場合もあります。

トリチウムに対する人体への影響を考慮して多くの腕時計にルミノバは使用されましたが、ミリタリーウォッチにおいては数時間で減光してしまうルミノバを使うのには抵抗がありました。

しかし、アメリカ軍はミリタリーウォッチにトリチウムの夜光塗料を使用することを禁じたのです。

ミリタリーウォッチを納品している時計メーカーは頭を悩ましていました。そんな中、スイスのmbマイクロテック社が小さなガラス管にトリチウムを封入した画期的なシステムを開発しました。

ガラス管の中でトリチウムが発する放射線に発光物質が反応すると強い光を放ちます。これは蛍光灯と同じ作用です。さらに、ガラス管にトリチウムが封じ込まれているので放射線が飛び散る心配がなく、昼夜問わず24時間自発発光します。

この「トリチウムガスライト」はミリタリーウォッチを製作するメーカーに急速に採用され、ミリタリーウォッチの主流になりました。

鉄道時計の老舗として有名なポールウォッチの「マイクロ・ガスライト」もこれと同じ仕組みを採用しています。

さらに最近では、LEDライトを搭載したミリタリーウォッチも登場しています。手元を照らすだけでなく、対象を照らせる高輝度を実現したモデルなど新時代のミリタリーウォッチが誕生しています。

ロレックスの「クロマライト」

ルミノバが腕時計の発光塗料の主流になった中で、ロレックスが2008年に販売したディープシーに採用された独自の発光塗料「クロマライト」が話題になりました。

その特徴は、ルミノバよりも2倍近い発光時間です。最大で約8時間も継続します。

また、ルミノバが緑色に発光するのに対してクロマライトは青色に発色するのも大きな特徴です。

ルミノバが主流の時代のロレックスには、緑色と青色の色を使用したモデルがありました。これは、まだクロマライトを正式に発表していない時に、ルミノバとクロマライトの2つの夜光塗料を使用したものでした。

ロレックスファンには、この2色のモデルは希少価値の高いものになっています。

夜光塗料の見分け方

ロレックスのアンティーク腕時計は人気の高いものですが、その時計に使われている発光塗料の種類を把握することも大切です。そのために重要なのが時計の文字盤に表記されている文字です。

ラジウム

健康被害の恐れからラジウムの使用が大幅に制限されたのは1961年からです。つまり、1960年以前の腕時計にはラジウムを使用したものが多く存在します。

ラジウムを使用した時計の文字盤には、「SWISS」もしくは「SWISS MADE」と表記されています。

トリチウム

ラジウムより安全な放射線物質として1990年代後半~2000年頃まで夜光塗料に使用されていたのがトリチウムです。ロレックスでは1997年頃まで使われていました。

トリチウムを使用した腕時計の文字盤には年代などによって違いがありますが、「SWISS-T<25」「T SWISS<25」「T SWISS T」「T SWISS MADE T」と「T」の文字が表記されています。

ルミノバ

放射性物質を使わない画期的な蓄光塗料として登場したルミノバは世界の時計をせっけんしました。

ロレックスもルミノバに移行し、文字盤からトリチウムの「T」はなくなりました。1997年頃から移行したのですが、この頃はまだトリチウムを使用していたものもあり、U番のシリアル番号の中には「T」の文字が入っているモデルも存在しています。

また、このT表記ではあるものの実際にはルミノバも使用したものもあり、マニアには「トリチウム+ルミノバ」で「トリチノバ」と呼ばれるレアアイテムになっています。

表記としては、
「SWISS」U番(1997年)~A番(1998-1999年)
「SWISS MADE」U番(1997年)~A番(1998-1999年)~P番(2000年)以降
となっています。

クロマライト

現在のロレックスのほとんどはクロマライトを使用しています。文字盤には「SWISS MADE」と表記されています。

ラジウムを使用している腕時計だから言って人体に直接的な被害があるとは限りません。あくまでも時計を製作する過程での健康被害であって、腕時計をしていた場合ではないので、ラジウムのアンティーク時計を持っていても心配する必要はありません。

大切なのは、夜光塗料に対する基礎的な知識です。夜光塗料の種類と特徴を理解して自分好みの腕時計を選択して下さい。

腕時計の夜光塗料についてのまとめ

  • 腕時計の夜光塗料にもさまざまな変遷がありました。
  • 夜光塗料はキューリー夫妻が発見した「ラジウム」がきっかけで誕生しました。蛍光物質にラジウムからでる放射線が当たることで発光する塗料は昼夜問わず暗い中で活動しなければならない兵士の腕時計には不可欠なものとなりました。
  • しかし、ラジウムを扱う時計職人から健康被害が出たことから、ラジウムより放射性物質の少ない「トリチウム」を使用した夜光塗料に代わっていきました。
  • 放射性物質に対する危険性が問われる中で、登場したのが日本のメーカーが開発した「ルミノバ」と呼ばれる蓄光塗料でした。従来の蓄光塗料の10倍の明るさと発光時間であっという間に世界の時計メーカーに普及したのです。
  • 現在ルミノバを使用する腕時計が主流ですが、ロレックスはルミノバより2倍明るい「クロマライト」を開発し独自の路線を進んでいます。
  • また、ミニタリーワオッチでは、トリチウムを小さなガラス管に封入した「トリチウムガスライト」や「LED灯」など長時間の使用でも減光しないものも登場しています。
  • ロレックスなどのアンティーク腕時計に人気が集まる中、使用されている夜光塗料について知識を持つことも時計選びには大切です。