社会人になると、冠婚葬祭や高級レストランでのディナー、会社の祝賀セレモニーといったフォーマルなシーンにのぞむ機会が増えてきます。

ある程度経験や年齢を重ねた方なら、そのような席でのマナーやドレスコードは熟知していると思いますが、意外に見落とされがちなのが腕時計に関するTPOです。

日本の一般的なマナーでは、腕時計のドレスコードまで指摘されることはまずありません。しかし国際的な儀礼では、腕時計にもフォーマルなルールがあります。もちろんフォーマルといっても格式はさまざまですが、礼装が必要なシーンでは腕時計にも心を配りたいところです。

ドレスウォッチとは

「ドレスウォッチ」と聞くと、女性のイブニングドレスやカクテルドレスにふさわしいゴージャスなジュエリーウォッチを連想されるかもしれません。しかし海外で「dress watch」というと一般的には男性用の意味合いが強く、女性用の場合は「ladies dress watch」、「women’s dress watch」などと表記されます。

男性用のドレスウォッチは、タキシードや燕尾服などのフォーマルファッションにマッチするシックでクラシックな時計を意味します。

ケースはカフスの下に隠れるような薄型のラウンドタイプで、素材は貴金属であること。文字盤は白かグレーで、針はシンプルな2針式であること。ブレスレットはメタルではなく黒のワニ革ベルトがふさわしい、とされています。

欧米の上流階級では、タキシードや燕尾服を着用するシーンが多いこともあって、パテックフィリップやブレゲ、オーデマピゲといった老舗の高級ブランドは例外なく、男性用のエレガントなドレスウォッチをコレクションのセンターに置いています。

ロレックスも日本ではスポーティなイメージが先行していますが、実はドレスウォッチ専用の「チュリーニ」というエレガントなブランドも展開しています。

近年、メンズウオッチのトレンドは、かつてのデカ厚スポーツミックス(スポーツとフォーマルをミックスしたスタイル)から、シックでエレガントなクラシックスタイルに回帰しつつあります。

スポーツミックスは、スポーティでありながらビジネスシーンでも違和感なく使える汎用性の高さがロングランにつながりましたが、最新のトレンドはドレッシーでありながら、ビジネスやカジュアルでも違和感なく使える「ドレスミックス」ともいえるスタイルに移行しています。

サイズもデカ厚から薄いミッドサイズに回帰していますので、小柄で手首の細い日本人にはうれしいトレンドと言えるでしょう。

ドレスウォッチといえばセイコー

エレガントな高級時計と言えば、スイス製の一流ブランドに目を奪われがちになりますが、日本を代表する腕時計ブランド、セイコーの存在も忘れるわけにはいきません。

1881年創業の長い歴史を持つセイコーは、1960年に世界最高級の腕時計をめざして、「グランドセイコー」という機械式腕時計専門の新たなブランドを立ち上げました。日本の熟練職人の手になるグランドセイコーの驚異的な精度はやがて、本場スイスのライバルたちをも脅かす存在になるのですが、1980年代に世界の時計産業に壊滅的な打撃を与えた日本製のクオーツ時計は、皮肉にも機械式のグランドセイコーにも市場からの撤退を迫ることになります。

しかし日本のトップブランドの消滅を惜しむ声は多く、1988年になるとクオーツ式腕時計のハイブランドとして復活をとげました。その後、機械式とスプリングドライブを加えた3タイプのムーブメントを搭載する幅広いラインナップを展開しています。

2017年にはセイコーから独立し、「GRAND SEIKO」という単独ブランドになっています。一方、セイコーにはもうひとつ、1974年に誕生したクレドール(CREDOR)というラグジュアリーブランドが存在します。

フランス語の「CRÊTE D’OR(黄金の頂き)」に由来するCREDORは、その名の通り宝石と貴金属を素材とした工芸的な時計をハンドメイドで生産しています。このCREDORも現在の「GRAND SEIKO」と同様に、ブランド的にはセイコーから独立していますが、ともに日本で唯一のマニュファクチュール(手作業主体の製造業)工房といえるセイコー雫石工場で生産され、日本の技術と芸術性を象徴するブランドとして、内外の時計ファンの羨望を集めています。

両ブランドのドレスウォッチをひとつずつ紹介すると、GRAND SEIKOではSBGW237、CREDORでは叡智Ⅱが代表作といえるでしょう。

メンズのプレミアムドレスウォッチといえば

フォーマルシーンで腕時計に求められる一番のマナーは「腕時計をしないこと」だと言われています。

なぜなら、パーティーなどの席で時間を気にするのはホストに対して失礼になるからです。でも現実的には、長いパーティーやセレモニーが終了するまで時刻を知る手段がないのも困りものです。そこでフォーマル用の腕時計としては、なるべく目立たない白やグレーの文字盤と、カフスの下に隠れやすい薄型ケースのドレスウォッチが用いられるようになりました。針は長短だけの2針がベストとされるのも、フォーマルシーンで秒針つきの時計を所持していると時間に神経をとがらせているように見られるからです。

かといって秒針がなければ時計が止まっていても気づきにくい、という問題もあります。

そこで近年ではドレスウォッチも秒針つきの3針タイプやスモールセコンドつきが主流になり、伝統的な2針のドレスウォッチを愛用するのは、保守的なセレブや上流階級の人々に限られるようになりました。現在も、2針のドレスウォッチをラインナップしているウォッチメーカーが超一流ブランドに多いのは、顧客の社会的地位から考えて当然のことと言えるでしょう。

パテック フィリップ

パテック フィリップ(Patek Philippe)は、1839年にジュネーブで設立された、スイスを代表する高級時計ブランドです。

創業以来、独立した家族経営と、完全自社生産を伝統とするパテック フィリップは、世界で最も高級かつ複雑な時計のマニュファクチュアラーとして、他に並ぶ者のない地位を保持しています。1932年に発売されたカラトラバコレクションは、パテック フィリップの歴史と品位を象徴するドレスウォッチの定番モデルとして、今も世界中の時計ファンに愛されています。

ヴァシュロン・コンスタンタン

パテック フィリップオーデマ ピゲとともに世界3大高級時計ブランドのひとつとされるヴァシュロン・コンスタンタンは、1755年にスイスのジュネーブで産声をあげました。

当時ジュネーブでは「キャビノティエ」と呼ばれる熟練時計師たちがそれぞれに工房を構えて腕とセンスを競い合っていましたが、ヴァシュロン・コンスタンタンのように創業から260年以上にわたって廃業も経営譲渡もせずに連綿と事業を継続しているマニュファクチュアラーはほかにありません。

ヴァシュロン・コンスタンタンのドレスウォッチといえば、パトリモニー・マニュアルワインディングを外せません。ホワイトゴールドのラウンドケースに2針式の白い文字盤というドレスウォッチのお手本のようなスタイルは、世界最古の時計ブランドらしい伝統の造形美に満ちています。

ジャガー・ルクルト

ジャガー・ルクルトは1833年にスイス国境に近いル・サンティエの町で設立されました。今も創業の地に本拠を構える同社は、ゆうに180年を超える歴史の中で数100件の特許を取得し、1,000種類を超えるキャリパーを開発するなど、先進的独走的な機械式時計を自社で一貫製造する体制を現在にいたるまで維持しています。

ジャガー・ルクルトを代表するドレスウォッチ「レベルソ」は、長方形のケースを180度反転することで、ポロなどのスポーツに着用しても時計のガラスを傷つけない仕組みになっています。

A.ランゲ&ゾーネ

ドイツの高級時計ブランド、A.ランゲ&ゾーネはドイツのザクセン王国の宮廷時計師によって1845年に設立されました。

現在はスイスのリシュモングループの傘下にありますが、本部は今もドイツ・グラスヒュッテにあり、同国伝統のマイスターらしい緻密で美しい仕上がりと、妥協を許さない設計により高級マニュファクチュールとしての地位を確立しています。A.ランゲ&ゾーネのサクソニア・フラッハは模範的ともいえる正統派のドレスウォッチです。

わずか5.9ミリというケースの厚みは同社の製品で最も薄く、ダイヤルは伝統的な2針式を踏襲しています。直径37ミリのやや小ぶりなケースは18Kのピンクゴールドとホワイトゴールドの2種類があります。

人気のレディース ドレスウォッチのブランド

レディース ドレスウォッチは、メンズのそれとは対照的に、貴金属やジュエリーをふんだんに用いた絢爛豪華な時計が主流です。そのため人気ブランドも高級時計のマニュファクチュアラーとジュエリーメゾンに大別されます。

カルティエ

1847年に宝石細工師ルイ=フランソワ・カルティエのジュエリー工房として誕生したカルティエは、その斬新なデザインと卓越した技巧によって一躍社交界の人気メゾンになりました。

時の英国王エドワード7世から「王の宝石商、宝石商の王」と称された、という逸話も有名です。

カルティエはまた1904年に世界初の男性用腕時計サントス・ウォッチを販売するなど、高級時計のマニュファクチュアラーとしても長い歴史と実績があります。

ジュエリーと時計造りの両方に長じたカルティエだからこそ、機能的な美しさの中にも馥郁とした芸術性を感じさせる魅惑的な時計を創造できるのかもしれません。同社のレディースドレスウォッチでは、パンテール ドゥ カルティエがおすすめです。1983年に誕生した優美でスタイリッシュなこの時計は、時流に流されない存在感で世界のセレブに愛されています。

ブランパン

ブランパンは現存する世界最古の高級時計ブランドです。1735年の創設以来、2世紀にわたって創業家のブランパン一族が経営し、1930年には世界初のレディス用自動巻ウォッチを発表するなど、高い技術と開発力を誇りましたが、創業家の断絶や1970年代のクォーツブームで経営が悪化し、事実上の廃業状態に陥ります。

その後、ブランパンの名前と歴史を惜しんだオメガ重役の尽力で復興し、現在はスウォッチグループ傘下のハイブランドとして、機械式の頂点に立つ高級時計を製造しています。ブランパンのレディースウォッチは、優雅でクラシックなスタイルの中にも現代的なセンスが感じられる銘品ぞろいですが、ここでは0063-1997-58A LADYBIRD ULTRAPLATEをご紹介します。

18Kホワイトゴールドのベゼルに小粒のダイヤモンドがきらびやかに配され、真珠母貝のダイヤルにはハート型のルビーがセットされています。 ムーブメントは手巻きの超薄型です。幸運にも入手できた方にとっては生涯の宝物になることでしょう。

ショパール

「ハッピーダイヤモンド」で有名なショパールは、1860年にスイスのソンヴィリエで創業しました。1937年にはジュネーブに拠点を移し、1963年にはドイツで時計と宝飾品製造に携わっていたショイフレ家に継承されました。のちにショパールの代名詞的となる「ハッピーダイヤモンド」は、この時期に開発されています。

1974年にはふたたびジュネーブに工房を移し、ジュエリーウォッチの製造を本格化しました。

以来、ショパールは機械時計とジュエリーの美しいマリアージュとして、世界の人々を魅了しています。代表作はもちろんハッピーダイヤモンド。表と裏のサファイアガラスにはさまれたダイヤモンドの一粒一粒が人の動きにあわせてスイングする、ゴージャスで洒脱なデザインが魅力です。

ピアジェ

ピアジェの創業者ジョルジュ・エドワール・ピアジェは、1874年にスイス・ジュラ地方の農村に小さな時計工房を構えました。

ピアジェのモットーは、Always do better than necessary(必要以上のことをいつもやる)。

彼が製造した時計のムーブメント製造のずば抜けた完成度はたちまち評判を呼び、工房はやがて親から子へ、子から孫へと引き継がれます。1957年には厚さ2mmの手巻きムーブメントを製作。さらに1960年には2.3mmの厚さに自動巻き機構を組み込んだムーブメントの製品化に成功しました。

この極めて薄く軽いムーブメントは文字盤やケースなどのデザイン上の制約を取り払い、斬新で魅力的なジュエリー装飾を可能にしました。

ピアジェの繊細でオリジナリティあふれるスタイルは、こうした技術と伝統に培われています。おすすめのドレスウォッチはPOSSESSIONのベーシックタイプです。29㎜径のステンレス製ケースと文字盤には計12個のダイヤモンドをちりばめています。

ストラップは簡単に交換できるインターチェンジャブルストラップを採用。ムーブメントはピアジェの自社製クオーツです。

ティファニー

ティファニーは1832年に設立された、アメリカを代表する高級ジュエリーブランドです。

設立当初は文房具や装飾品を扱っていましたが、1848年からダイヤモンドの宝飾品販売を開始。やがてアメリカを代表とする宝石商に発展しました。

その後は比較的安価なシルバー製品から最高級のダイヤモンドまで多様な貴金属と宝石を素材に幅広い商品を展開しています。ここにご紹介するティファニー・カクテルウォッチは楕円形の文字盤が個性的なドレスウォッチです。

ケースは18Kのホワイトゴールド。ギョシェ加工にローマ数字で時刻を刻んだクラシックな文字盤を1.53カラットのダイヤモンドで取り巻いています。ムーブメントはクオーツ式で3気圧防水。スイス製です。

ドレスウォッチのまとめ

  • ドレスウォッチは女性用はゴージャスなジュエリーウォッチが中心ですが、男性用は薄手のシンプルな時計になります。
  • 日本ではグランドセイコーやクレドールなどのセイコーブランドでハンドメイドの高級ドレスウォッチを製造しています。
  • 男性用のドレスウォッチは高級時計ブランドに多く、女性用はジュエリーメーカーも数多く手がけています。