腕時計は私たちにとって、最も身近な精密機器のひとつです。落としたり、ぶつけたり、濡らしたりすると、故障の原因になることは誰もが知っている常識ですが、時計を扱う際に注意すべき点はそれだけではありません。

実は意外に多いのが、磁気によるトラブルです。ここでは時計の大敵といえる磁気とその対策について解説します。

時計に磁気は大敵

磁石が鉄やニッケルなどの金属を引きつける作用を「磁気」といいます。磁石のN極とS極が引き合ったり反発したりするのも、磁気という見えない力が働いているからです。

また磁気は磁石だけでなく、電流によっても発生します。たとえば1本のまっすぐな電線に電気を流すと、電線を中心にして同心円状の磁場(磁気が働く空間)が発生します。

その電線をぐるぐる巻いてコイルを作り、永久磁石の磁場の中で電気を流すと、フレミングの左手の法則により、コイルを動かそうとする力が発生します。

その原理を応用したのが電気モーターであり、スピーカーです。どちらも現代社会になくてはならない重要なパーツです。一般家庭にも数え切れないほどありますが、それらは全て磁気の発生源になります。

もちろん家電が発する磁気はごく微量であり、人体への影響はまったくありません。

ただし針が回るアナログ式の時計の場合は、クオーツ、機械式を問わず、磁気の影響を大変受けやすく、家電製品のわずかな磁気でも、1日あたり数秒といった時間のずれを招くことがあります。

アナログ時計をお持ちの方はくれぐれもその点にご注意下さい。

耐磁時計おすすめの紹介 腕時計とは切っても切れない磁気帯びの解説

磁気帯びの症状

前述のように針が回るアナログ式の時計はクオーツ、機械式を問わず、磁気に弱い性質があります。クオーツのように電気で動く時計は、針を回転させるためにステッピングモーターという超小型の特殊なモーターを使用しています。

このステッピングモーターは、一定間隔で瞬間的に電気を流すことで、時計の針を一定の角度ずつ回すように制御されています。電気で動くアナログ時計が磁気の影響を受けやすいのは、このステッピングモーターの回転軸に取り付けられた磁石が、外部の磁気に反応するからです。

電池やソーラーパワーの充電量はたっぷりあるのに、クオーツ時計の針が動かなくなったり、時間がずれたりするときは、磁気の影響が疑われます。

その場合はすみやかに磁気の発生源をつきとめて、時計を遠ざけてください。クオーツ時計は磁気の影響さえなくなればすぐ正常に戻ります。

ただし機械式時計の場合は、そうはいかない可能性があります。一般的な機械式時計は、「ゼンマイ」という、らせん状に巻かれた細長い金属板が元に戻ろうとする力を利用して、時計の針を回しています。

そしてそのゼンマイの回転速度を調整して時計の精度を決めるのが、「テンプ」と呼ばれる小さなリング状の部品です。テンプは自動車のハンドルのような形になっていて、内側に「ひげゼンマイ」という蚊取り線香型の細いゼンマイが取り付けられています。

柱時計などの大型の機械式時計は、振り子で針の動きを制御します。一方、腕時計はひげゼンマイの反発力によってテンプが規則正しく反復運動することで、振り子と同じように正確な時を刻む仕組みになっています。

機械式時計が磁気に弱いのは、鉄でできたひげゼンマイが磁気を受けると、テンプの反復運動が乱れるためです。しかも鉄は強磁性体です。強い磁気にさらされると、それ自体も磁気を帯びてしまう性質があります。

「ひげゼンマイ」が磁気を帯びると、テンプの動きが不規則になり、精度が低下して時間が狂ったり、止まったりする恐れがあります。その点、クオーツ時計は、水晶発振器で正確な時刻信号を生成するため、磁気の影響で重大な狂いが生じることはありません。

クオーツをはじめ電気式の時計で磁気による狂いが生じる箇所は針を回すモーターだけです。また液晶表示などのデジタル時計は、そもそもゼンマイやモーターを内蔵していないため、磁気の影響はありません。

ただしデジタル表示とアナログ指針を併用するコンビネーションウオッチの場合は、針を駆動するステッピングモーターが磁気の影響を受けるため、アナログ時計と同様の注意が必要です。

機械式時計の時間合わせとカレンダー合わせをする方法を解説

磁気帯びを判断するには

大切な時計が止まってしまったり、時刻が不正確になった場合、それが経年劣化か、機械的な故障か、あるいは磁気の影響なのかを、きちんと判断しなければなりません。

そのような場合は時計を購入した店舗に修理や調整を依頼するのがベストではあるのですが、磁気の有無を調べるだけなら、方位磁石による簡単な判別方法があります。

方位磁石はきわめて磁気に敏感であるため、時計に近づけて磁石が反応したら、磁気帯びの可能性が高いと判断できます。その場合は時計専門店に磁気抜きを依頼したほうがよいでしょう。

磁気が出る機器

前にも述べたように磁石を使用するスピーカーやモーターは微量ながら磁気を発生します。したがって、それらを内蔵するパソコンやスマートフォン、ヘッドフォンなども磁気を放つので、時計にとっては大敵です。

他にも磁気ネックレスやタブレット端末のカバー、フタがマグネットで閉じるバッグや、磁力で消せるお絵かきボードなども磁石を使用しているため、時計にとっては有害な磁気の発生源になります。

小さなお子様がいらっしゃる方は、腕時計に磁石をくっつけて遊んだりしないように、じゅうぶん気をつけなければなりません。また冷蔵庫や洗濯機、電子レンジ、掃除機などの家電製品はさらに強力な磁石を使用しています。

なかでも冷蔵庫はモーターだけでなく、ドアがぴったり閉まるようにパッキンにも磁石を内蔵していますので、なるべく時計をそばに置かないように注意しましょう。

ちなみに家電で最も強い磁気を出すのは「IHクッキングヒーター」などの電磁調理器です。

IH調理器は強力な電磁石そのものです。くれぐれも時計をつけたままで調理などしないように気をつけてください。

磁気抜きの相場

最近は時計店に腕時計の磁気抜きを依頼する方が増えています。磁気抜きだけであれば、ほとんどの時計店がその場で対応してくれます。料金は1000円から2000円程度です。

腕時計のケースやベルトの消磁は5分程度ですみますが、残留磁気が強い場合や、ひげゼンマイのような内部の部品が帯磁している場合は、オーバーホール(分解掃除)が必要になるため、日数と費用が別途かかります。

磁気抜き器もある

時計の磁気抜きをする方が増えていることもあり、最近では海外製の安価な磁気抜き器がネットショップで簡単に入手できるようになりました。

クオーツ時計については、磁気帯びの影響がそれほど大きくないので、あまり神経質になる必要はないと思いますが、機械式時計をいくつも持っている方や、腕時計が磁気にさらされやすい環境にある方は、このような磁気抜き器を手に入れて、定期的に消磁すると良いでしょう。

時計の磁気抜きについてのまとめ

  • 針が回るアナログ式の時計は、クオーツ式や機械式を問わず、磁気の影響を受けやすい。
  • 磁石を使う道具や家電製品のほとんどは、時計に有害な磁気の発生源となる。
  • 磁気を帯びたアナログ時計は時間の誤差が増えたり、止まったりすることがある。
  • 時計が磁気を帯びているかどうかは方位磁石でチェックできる。
  • 時計の磁気は市販の磁気抜き器で消去することができる。