アベノミクス効果で景気は回復していると言われていますが、消費者はあいかわらず物価の変化、特に値上げに対してはとても敏感で、少し値段が高くなっただけで財布のひもをギュッと締める傾向が強くなっています。

では、そもそも物価の元になる小売価格や定価は誰がどのようにして決めているのでしょうか。

ここでは経済の主体とも言える商品の販売価格について解説いたします。

希望小売価格とは

私たちが日常生活で消費しているものやサービスのほとんどは自分自身が生産したものではなく、生産者や提供者が商品として販売しているものです。

ではその商品の価格は誰が決めるのでしょうか。ここでは商品の定価と希望小売価格、オープン価格、参考小売価格を例に解説してゆきます。

定価と希望小売価格

生産者が消費者(または卸問屋などの買い取り業者)に商品を売る場合、基本的には買い取る側と交渉して販売価格を決定します。

価格は商品の需要と供給のバランスによって変わります。たとえば肉や魚、野菜などの生鮮食料品の場合、天候の影響で供給が減るか、あるいは需要が増えるかすれば価格は高くなり、逆になれば下がります。

そのような変動性の価格を「相場」と呼びます。相場は市場での競りや売買交渉によって決まるので、「市場価格(しじょうかかく)」ともいいます。市場価格はつねに変動するのが基本的なルールです。

それに対して文房具や自動車、パソコンなどの工業製品は同じものを安定的に量産し、供給することができます。生鮮食料品のように消費期限が短すぎることもなく、生産量もある程度調整できるので、需要と供給のバランスがはげしく変動することはありません。そのような製品の価格を市場で毎日交渉して決めるのは合理的ではありません。

そこで生産者側があらかじめ消費者への販売価格を決定し、デパートや専門店などの小売店に遵守させるようになりました。その販売価格を「定価」といいます。定価は、商品の生産に必要な費用(製造原価)に利益を上乗せした金額を、商品の生産量計画と照らして算定するのが一般的です。

定価の最大の特徴は、小売店に対して契約上の強制力があることです。したがって小売店が商品の値下げや値上げを勝手に行うことは認められません。

このようなシステムは小売店同士の行き過ぎた価格競争を防ぐ効果がありますが、一方で、相場が市況を反映しないため健全な価格競争ができなくなります。

それでは消費者の不利になるので、定価の設定は、一部の例外を除いて、独占禁止法で禁止されるようになりました。そこで生産者が「この価格での販売を希望するが、強制はしない」という意味で決めた価格が、希望小売価格です。

希望小売価格には義務や強制力はありませんので、小売店は商品の販売価格を独自の判断で決めることができるようになりました。

オープン価格とは

最近の家電やパソコン、カメラなどのカタログを見ると、「メーカー希望小売価格」の欄が「オープン価格」あるいは「オープンプライス」になっていて、具体的な金額は記載されていません。

消費者にとってはいささか不親切ですが、商品の実売価格を決定するのは、本来、生産者ではなく小売店であるべきですから、生産者のカタログに販売価格の記載がないのはむしろ当然のことです。

生産者が希望小売価格の公表を控えるようになった背景には、公正取引委員会の指導があります。かつての定価販売では、自由な価格競争ができませんでした。それが問題視されるようになったので、生産者は価格を強制しない「希望小売価格」制度を導入しました。その結果、市場に「相場」が形成され、商品の価格が市況に応じて変動するようになりました。すると大手量販店のあいだで「価格破壊」と呼ばれる激しい値引き合戦が行われるようになりました。

新聞のチラシ広告を中心に「2割3割は当たり前!」 、「9、8、7、6、5割引!」といった消費者の射幸心をあおる過激なキャッチコピーが常態化するようになりました。それがほんとうの割引なら問題ないのですが、実際には、市況の変化による相場の値下がりを小売店独自の値引きのように広告していたケースが多く、不当表示として規制が求められるようになりました。

そこで公正取引委員会が公表した「価格表示ガイドライン」によって、実売価格と希望小売価格に大きな差がある場合は「不当景品類及び不当表示防止法」に違反する「二重価格表示」とみなされることになりました。

このガイドラインによって、生産者の多くが「オープン価格」や「オープンプライス」制度を採用し、商品の販売価格を小売店の裁量にまかせるようになったのです。

「open」はご存じのように動詞で「開く」という意味の英語ですが、形容詞では「無統制の」や「制限のない」という意味があります。「オープンプライス」は「生産者が統制や制限をしない価格」をいいます。

参考 消費者庁:景品表示法

希望小売価格の英語表現

希望小売価格の英語表現は「list price」「manufacturer’s suggested retail price (MSRP)」「recommended retail price (RRP)」「suggested retail price (SRP)」などがあります。

日本語では、
「list price」=定価、
「manufacturer’s suggested retail price (MSRP)」=メーカー希望小売価格
「recommended retail price (RRP)」=上代価格(小売価格の業界用語)
「suggested retail price (SRP)」=希望小売価格
とこのように翻訳されます。

ちなみにアメリカではMSRP、イギリスではRRPが主に用いられます。

欧米でも定価の設定は独禁法に違反するため、基本的には行われていません。

希望小売価格より高いことはある?

商品の需要と供給のバランスによっては、実売価格が希望小売価格より高くなる場合があります。

たとえば富士山の山頂で販売されている飲料の価格がまさにそれです。この飲料にも希望小売価格は設定されているはずですが、実売価格の決定は小売店に任されるので、希望小売価格の何倍も高く売ったとしても違法にはなりません。

富士山頂の飲料の価格は商品を山頂まで運搬する経費が含まれています。その価格を消費者が妥当と判断して購入することで、需要と供給のバランスが成立することになります。

ちなみに消費者庁は2017年12月にインターネット通販の大手「アマゾン」がメーカー希望小売価格よりも高い値段を参考価格にしたのは景品表示法違反にあたるとして、再発防止の措置命令を出しています。

このときはメーカー希望小売価格が税抜き600円の商品を956円で販売したとされていますが、消費者庁が問題視したのは、希望小売価格が税抜き600円の商品を「参考価格3780円」と6倍もの額に表示して、956円という販売価格がずいぶん割安であるかのように有利誤認させたことです。

商品をメーカー希望小売価格より高く売ること自体は、基本的に違反ではありません。

参考 消費者庁:景品表示法
(景品表示法関係公表資料の平成29年12月27日
アマゾンジャパン合同会社に対する景品表示法に基づく措置命令について

希望小売価格のまとめ

  • 定価は商品の生産者が決めた販売価格で、小売店に対する強制力があります。
  • 希望小売価格は商品の生産者が小売店に希望する販売価格で、強制力はありません。
  • オープン価格は、生産者が統制や制限をしない価格のことで、商品の販売価格は小売店が決めるという意味です。