現在のデジタルハイビジョン放送は、テレビ番組を高画質高音質で視聴できるだけでなく、さまざまな機能やサービスを利用して、番組をより多角的に楽しむことができるようになっています。
一方で、多彩な機能の中には、使いこなせれば便利で役に立つことはわかっているけれども、仕組みや使い方がなんとなくピンとこないものも少なくありません。
そんな機能のひとつに文字多重放送があります。
もともとは聴覚に障害のある方や耳が遠くなった方もテレビを楽しめるように実施している字幕放送なのですが、一般の方でもテレビの音声が聞き取りにくいときや、わけあって音を大きくできない場合でも、文字放送で字幕を表示すれば安心してテレビを楽しむことができます。
アナログ放送では文字放送に対応したテレビでなければ利用できませんでしたが、デジタルハイビジョンテレビは標準で字幕放送に対応していますので、ご自宅のデジタルハイビジョンテレビやフルセグ対応のスマートフォンなら、すぐにでも利用することができます。
ここでは知っておくと意外に便利な文字多重放送について解説いたします。
そもそも文字多重放送とはなにか?
文字多重放送は、耳が遠い人や音を聞けない人にもテレビ番組の内容を理解してもらえるように、テレビの映像信号に字幕や図形のデータを織り込んで放送するサービスのことをいいます。
地上波のテレビでは1985年から文字放送がはじまり、FMラジオでも1994年から提供されるようになりました。ラジオ放送はすでにサービスを終了していますが、テレビは配信を継続しており、対応番組も増えています。
新聞やインターネットなどのテレビ欄に「字」マークがあれば、その番組は文字放送に対応しています。ニュース番組であれば、音声の内容を字幕で確認することができます。
ドラマや映画ではセリフはもちろん、足音などの効果音や視野外の悲鳴にいたるまで字幕で説明してくれるので、音声がなくてもストーリーを理解することができます。
文字多重放送の特徴
日本のデジタルテレビ放送では、BS11を除く民放各局とNHKで、おもに日本語の字幕放送を実施しています。デジタルテレビ放送は標準で文字多重放送に対応していますので、地方の単独局でも文字放送を配信することができます。
ワンセグ放送でも実施していますが、文字放送の受信機能は規格上オプション扱いになるため、機種によっては字幕放送に対応していない場合もあります。
デジタルテレビで文字多重放送を利用したいときは、リモコンのメニューで「字幕」をオンにすると、表示できるようになります。文字多重放送のデータはテレビの放送信号に含まれているので、追加の設備や受信料は必要ありません。
初期の文字放送ではリアルタイムで字幕を作成して送信する技術がなかったので、文字放送に対応できるのは、事前に収録した番組に限られていました。
しかし近年では技術的な進歩の恩恵もあって、ニュースやスポーツのライブ番組でも文字放送が実施できるようになっています。
リアルタイムで字幕を付加する方法は、人が音声を聞きながらキーボードで入力する方法と、音声認識システムによる自動変換方式の2つがあります。
音声認識システムは精度があまり高くないので、アナウンサーが読むニュース番組のように発声がクリアで早口にならない番組に採用されています。
一方、スポーツのライブ中継などはキーボード入力が主流ですが、いずれも字幕を作成して番組に加えるのには時間がかかるため、ライブ番組では、人がしゃべってから数秒遅れで字幕が表示されることになります。
文字多重放送の規格
アナログテレビでは、ブラウン管の電子ビームが上下左右の反復運動をくり返しながら映像を表示しています。その上下動の折り返し点でビームを戻す際の光跡が映らないように、放送電波には「垂直帰線区間(VBI)」という映像信号のない余白部分が設定されています。
アナログ放送の文字多重放送は、このVBIの余白に文字データのデジタル信号を圧縮して詰め込むことで同時伝送を実現していましたが、そのようなVBIの利用法はもともと想定されていなかったため、文字放送の受信には専用の機能を備えたチューナーかテレビが必要でした。
一方、デジタルハイビジョン放送では、文字多重放送はデータ放送のひとつとして標準規格に含まれているため、デジタル放送に対応したテレビやチューナーであれば、もれなく文字放送を利用することができます。
デジタルハイビジョンの文字放送は、VBIではなく垂直補助データ領域(VANC)というデータ挿入領域を利用して、字幕データなどを伝送しています。
データ放送はコンテンツが豊富で、字幕のスクロール表示や多言語対応などの拡張機能に対応できるほか、従来のアナログ放送用の文字データも伝送することが可能です。
ちなみに文字多重放送はテレビだけでなく、かつてはFMラジオでも行われていました。ラジオによる文字放送に先鞭をつけたのは、1994年10月1日にエフエム東京(TOKYO FM)が開始した「見えるラジオ」でした。
その後、1996年3月からはNHKも全国の8つの基幹局でFMラジオの文字放送を開始しています。FMの文字放送はステレオ放送に用いられる副搬送波(サブチャンネル信号)の高域に、デジタル化した文字データを付加して送信する方法を採用していました。
FMラジオの文字放送は番組でかける楽曲のタイトルなどを表示するだけでなく、災害時の手軽な情報収集手段としても活用が期待されていましたが、その後の携帯やスマホの普及によって多彩な情報が日常的に得られるようになったことで需要を失い、2016年までに全ての放送を終了しています。
文字多重放送についてのまとめ
- 文字多重放送はテレビの電波に文字データの信号を織り込んで放送する無料の字幕サービスのことです。
- 文字多重放送は音を聞き取りにくい人のために提供されていますが、一般の人もテレビの音声が聞けない場合に重宝します。
- かつてはFMラジオでも文字放送が行われていましたが、現在では放送を終了しています。