プラズマディスプレイと言っても、見たことがある方はもうあまりいないかもしれません。
かつてテレビ放送がアナログからデジタルハイビジョン放送へ移行したころ、ボディの薄さと画質の良さで液晶ディスプレイと人気を二分していたのがプラズマディスプレイでした。
液晶よりも画質が良く、大画面化が容易なことから、小型テレビは液晶が、大画面テレビはプラズマが主流になると予想されていました。

しかし、その後の液晶の急激な進化と低価格化に追いつくことができず、当時プラズマディスプレイの唯一のメーカーだったパナソニックが2014年3月にパネルの生産を打ち切ったことから、「プラズマディスプレイ」の名はテレビ市場から消え去りました。
現在のテレビ用ディスプレイの主流は有機ELと液晶に二分されています。
その意味でプラズマディスプレイは、「期待に応えられなかった、かつてのエース候補」と言えるかもしれません。

プラズマパネルの生産終了からすでに4年あまり。テレビとしての寿命を考えると、現在プラズマディスプレイを愛用している方の多くは、買い換えを検討する時期を迎えているのではないでしょうか。
ここでは、消えゆくかつてのエース候補、プラズマディスプレイについてふり返ります。

そもそもプラズマディスプレイとはなにか?

プラズマディスプレイはその名の通り、プラズマ放電を利用して映像を表示する薄い平面型の装置です。
その原理と構造を簡単に説明しますと、2枚のガラス基板の間に封入したヘリウムなどの希ガスに電圧をかけると、プラズマ放電によって紫外線が発生します。
そのエネルギーで、ガラス基板の内側に塗布した蛍光体を発光させる仕組みです。
この原理は電灯に使われる蛍光灯と基本的に同じです。プラズマディスプレイは、赤、緑、青の3色に塗られた非常に小さな蛍光灯を百万個単位でびっしりならべて、ひとつひとつの蛍光灯の光をコントロールすることで、自然なカラー映像を表示する仕組みです。

プラズマディスプレイの原理

そもそもテレビやスマホのディスプレイはどうして映像をカラーで表示することができるのでしょうか。
皆さんの手元にあるテレビやスマホに何か映像を表示して、ディスプレイの表面を高倍率のルーペで見てみましょう。

すると赤、緑、青の3色の点が1セットになって、整然と並んでいるのがわかります。
さらに映像の赤い部分を拡大すると、緑と青が消えて、赤以外は黒くなっていることがわかるはずです。
人の目はさまざまな色を認識できますが、そのうち赤、緑、青の3色を「光の3原色」と呼んでいます。
なぜかというと、この3色があれば肉眼で見えるほとんど全ての色を再現することができるからです。

テレビやスマホなどのディスプレイはこの原理を利用して、赤、緑、青の各色に光る非常に小さな点をミクロン単位で並べています。
そして、その点の明るさを個別にコントロールすることで、さまざまな色を合成し、映像として表示しています。
この原理は液晶も有機ELもプラズマも基本的には同じです。ちがうのは赤、緑、青の各色の点を光らせる原理と仕組みです。
プラズマディスプレイは、光の3原色の小さな無数の点のひとつひとつを、蛍光灯と同じ原理で点灯させて、映像を表示する装置です。

プラズマディスプレイは3原色の点の光を個別にコントロールできるのでコントラストが高く、また高速応答性が非常に高いため、動きの速いものでも残像が見えることはありません。

視野角も広く、どの角度からでも鮮明な映像を楽しむことができるという優れた特徴がありました。
そのため現在でもプラズマディスプレイの生産終了を惜しむ声は少なくありません。


参考動画 プラズマディスプレイ

参考サイト IT用語辞典バイナリ 「PDP」
デジタル用語辞典 「プラズマディスプレイ」

プラズマディスプレイの寿命

プラズマディスプレイの寿命は初期のモデルでは3万時間前後とされていましたが、その後も改良が進んで、2010年以降の最後期モデルになると10万時間と表記されていました。
プラズマテレビの平均寿命は、15年から30年です。
バックライトではなく、内部に放電する仕組みを搭載しています。寿命が長いというのが最大のメリットです。

それに対して液晶ディスプレイはおおむね6万時間とされていますので、単純に比較すると液晶の方が短命ということになります。
ただし液晶ディスプレイはバックライトと液晶を個別に交換できるのに対し、プラズマディスプレイはパネルの全替えになるため、修理費が高くつく可能性があります。
またメーカー各社の部品保持期限は製造後8年ですので、最後期のプラズマディスプレイでも、補修部品がだんだん入手できなくなっていることも考慮しなければなりません。

プラズマテレビの寿命の症状

プラズマテレビが寿命を迎えた場合、症状の多くは画面にあらわれます。

発色が悪くなったり、輝度を調整しても画面が暗いままになったり、縦横にラインが入ったりします。
最悪の場合、電源を入れても画面が黒いままで何も写らなくなります。
一般に、テレビの輝度が50パーセント以下に落ちたら寿命といわれています。
プラズマテレビはバックライトを使用していないので、画面が暗くなってもバックライトだけ交換するわけにはいきません。

パネルの全替えとなると、新しいテレビを購入するよりも高くつく場合が多いので、その時点で寿命と考えた方が良いでしょう。

またプラズマテレビの多くがクーリングファンを搭載していますが、ファンの劣化で「ウィーン」という異音が発生することもあります。その場合はファンの交換で対処できます。

プラズマディスプレイの衰退

ほんの10数年前まで、液晶ディスプレイの生産は歩留まりが悪く、大画面化はむずかしいと言われていました。
それに対してプラズマディスプレイは大画面化が容易で、コスト的にも優位とされていました。

逆にプラズマディスプレイは画素の極小化がむずかしく、40インチ以下のフルハイビジョン化や、高画素の小型ディスプレイを商品化することができませんでした。

そこで液晶は小型テレビ向け、プラズマディスプレイは大型テレビ向け、という棲み分けができるのではないかと考えられていました。
でも、逆に言えばプラズマディスプレイは、売り上げが最も多い中小型テレビの市場を最初から液晶ディスプレイに譲らざるをえなかった、ということでもあります。

実際、電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、2006年末の地上デジタル放送対応ハイビジョンテレビの累計出荷台数は、液晶テレビが800万台を超えているのに対し、プラズマテレビは160万台にとどまっています。
その後も液晶ディスプレイはLEDバックライトを採用するなどの改良によって、超薄型化と省電力化をアピールするようになります。

高画素化についても「フルハイビジョン」を売り物にするなど、巧みな広告戦略によって、液晶ディスプレイはテレビ市場をリードしていきました。それに対してプラズマディスプレイは省エネや薄型化、高画素化の面で限界に直面するようになります。
しかもプラズマには、同じ映像を長い時間表示しつづけると焼きつきを起こして画面に痕跡が残ってしまうという、液晶にはない大きな欠点もありました。

プラズマディスプレイを唯一製造するパナソニックは社運をかけて改良につとめましたが、次第に劣勢の挽回はむずかしい情勢になっていきました。
そこでパナソニックは液晶が苦手としていた大型テレビ市場に一打逆転のチャンスを求めて新しい工場を建設し、最盛期には103インチという超ビッグサイズのテレビを商品化するまでになりました。
対する液晶陣営のシャープもまた、パナソニックと大型テレビ市場の覇権を競うように巨額な設備投資に邁進し、2009年ごろには50インチ以上のパネルを量産する技術と設備を確立しました。

これにより売れ筋の大型テレビの実売価格で液晶がプラズマを下回るようになり、ただでさえ消費電力が大きいプラズマテレビは、消費者に背を向けられるようになりました。

その後も液晶陣営は世界のテレビ市場で優位を保ち、大型化と高精細化技術においても驚異的な早さで進歩をとげました。
しかしシャープとパナソニックによる国産メーカー同士の熾烈な大画面競争はシャープの勝ち、とはなりませんでした。
2009年のリーマンショックにより世界の高級テレビ市場が崩壊したことで、シャープもパナソニックも巨額な設備投資が裏目に出て、ともに経営が逼迫するという皮肉な流れになりました。


こうしてプラズマディスプレイは2014年にすべての生産を終了し、市場から消え去ることになりました。
一方の液晶ディスプレイは韓国や台湾、中国の家電メーカーにシェアを奪われ、経営不振に陥ったシャープは台湾企業の傘下に入り、経営再建を図ることになります。

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プラズマディスプレイについてのまとめ

  • プラズマディスプレイはかつて液晶と人気を二分しましたが、現在ではテレビ市場から消滅しています。
  • プラズマディスプレイは大画面化が容易で画質が良い反面、消費電力が大きく、高画素化がむずかしいとされていました。
  • プラズマディスプレイの寿命は液晶より長いとされていますが、故障や不調が発生するとパネル交換になるため、修理費は高額になります。