腕時計は時刻を知るという機能性が重要ですが、それ以上に重要なのは「モノ」としての価値です。
機能性だけで言えば、1万円ちょっとで「防水・ソーラー駆動・電波時計」の三拍子揃った腕時計を購入できます。
しかし、10万円を軽く超えてくる高級腕時計には、モノとしての価値を高める「長い歴史」が存在します。この長い歴史を知るために重要なのが、時計業界全体の傾向を知ることになります。
今回は、世界全体の時計業界の現状、国内の腕時計メーカーが伸び悩んでいる理由、国内の腕時計シェア比率について解説していきます。
それぞれの国やメーカーが、どんな状況に置かれているのかを知って、自分の腕時計選びに役立ててください。
目次
時計業界の現状
1900年初頭に腕時計の販売が始まってから、自動巻き腕時計の普及という大きな出来事がありましたが、直近50年では「クオーツショック」と「スマホの普及」という出来事がありました。
特にスマホの普及は、時計業界の存続を脅かすほどの大ニュースでした。
この2つの出来事が、時計業界にどれだけの影響をもたらしたのか、売上高や生産量などの具体的な数値を用いて解説していきます。
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時計王国スイスは復調傾向にある
「クオーツショック」という出来事をご存知でしょうか、1969年に発表されたSEIKOのクオーツ式腕時計「アストロン」は、機械式時計とは桁違いの精度の高さを見せつけ、世界全体の腕時計の主流はクオーツ式に移行していきます。
アストロンが発売されただけなら、それほど痛手とはなりませんでした。問題だったのは、「異常に安価なクオーツ式が量産されてしまったこと」です。
それまでの主流であった機械式時計は、安いものであっても数万円という価格設定で、衝撃に弱いということもあり、一般庶民としてはボーナスが出たときくらいしか買えないものでした。
しかし、クオーツ式腕時計は低コストでの生産が可能なため、安いものでは数百円程度で買うことが可能になりました。
この「腕時計の価格が一気に下がった現象」をクオーツショックと呼び、このクオーツショックの影響を最も大きく受けたのが高級腕時計をメインに生産していた時計王国「スイス」です。
クオーツ式腕時計の正確さと安さから、機械式時計の売れ行きは毎年右肩下がりになってしまい、いくつかのスイスの高級腕時計メーカーが倒産の危機に追いやられるほどでした。
あまりのショックの大きさにスイスメーカーの各社が対策に遅れていましたが、近年では高級路線に集中することで、徐々に売上高を回復させつつあります。
2015年のスイスメーカーの売上高は224億ドル(日本円換算で約2.4兆円)まで回復しています。日本の首都である東京都の2016年年間予算が7兆円なので、これと比べるとスイスメーカーがどれだけ復活しているのか分かるでしょう。
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国内メーカーは今ひとつ伸び悩んでいる
日本人はブランド志向が強いため、国内メーカーよりも海外メーカーを選ぶ傾向があり、国内の腕時計メーカーは国内市場で苦戦しています。
ここに追い打ちをかけるように、スマートフォンが全ての世代に普及し始めました。ブランド思考の強い日本人ですが、「正確さ」や「荷物の少なさ」を求める人も多いのが特徴です。
スマートフォンは常にインターネットに接続し正確な時刻を把握でき、どこに行くときも絶対に持ち歩くものなので、時間はスマホで見られるから腕時計は着けないという人が時代を追うごとに増えています。
スーツを着こなす社会人の皆さんも、仕事の日は身だしなみとして腕時計を着けているけど、休みの日に出掛けるときは腕時計を着けないという人が多いのではないでしょうか。
国内メーカーが伸び悩む理由
国内の腕時計メーカーが伸び悩んでいるのは、スマホによって国内需要が減っているからだけではありません。
そもそも、GDP(国内総生産)や最低賃金が伸びていないことからも分かるように、日本は生活の全てにおいて節約をせざるを得ない状況になっていることが分かります。
また、国内売上が伸ばせない時に重要な海外戦略の面で、国内腕時計メーカーは海外メーカーに比べて後手に回ってしまっている影響も大きくなっています。
経済が停滞しているため伸び悩んでいる
国全体の経済状況を把握するための数値として、GDP(国内総生産)というものがあります。GDPを簡単に表現すると、「1年間に国がどれだけ儲けを出したのか」という数値です。
日本のGDPは、バブル崩壊直後の1995に約580億円を記録してから、多少上下はあるものの2016年は約528兆円と減少しています。
確かに日本という国は、経済的にある程度成長しきった先進国のため、成長し続けるのは難しいのですが、国全体として利益が減っていることからも、国民ひとりひとりが持つお金が減っているのが分かります。
もう一つ、身近で分かりやすい経済指標に「最低賃金」があります。こちらを見ると、2005年から2014年の10年間で、最低賃金が100円上昇しています。
労働時間を8時間として土日祝を全て休日にすると、2018年の年間稼働日数は248日なので、時給が100円上がっただけでは年収で見ると24,800円しか増えていません。
最低賃金ベースで見ると、年間の給料が約2万円しか増えていないにもかかわらず、消費税は増税され年金や社会保険料は増え続けています。
このような状況が続いている日本では、高級な腕時計を買える人はごく一握のため、国内で腕時計の売上を伸ばすのは困難と言えるでしょう。
東南アジアへの進出がカギとなる
海外の腕時計メーカーは、これ以上増やすのが難しい先進国への注力を辞め、中国を始めとするアジア圏への進出に力を入れています。
爆買いに見られるような中国人の購買力は凄まじいものがあり、スイスの高級腕時計メーカーを支える原動力となっています。
これに対して、まだ発展途上国が多い東南アジアには、高級腕時計メーカーはそれほど入っていません。ここに目をつけた国内メーカーは、徐々に進出し成果を出しています。
ただし、需要はあるものの売上単価が低くなってしまうため、業績を打開できるほどの力はありません。しかし、これから途上国が先進国に近づくにつれて売上が伸びる期待は大きく、伸びしろがあるとも考えられます。
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国内でのシェアはカシオ・シチズン・セイコーが拮抗している
国内の売上を見ても世界の売上を見ても、日本の腕時計メーカーは影響力の強い3社がほぼ独占している状態になっています。
シェア率は、1位のカシオが34%、2位のシチズンが33%、3位のセイコーが29%となっており、4位以降は残りの4%程度に留まっています。
国内腕時計メーカーの成功は、完全にこの3社にかかっていると言って良いでしょう。国内需要の増加は見込めないため、海外での影響力をどれだけ増やせるのかが今後の課題であり、成長のカギとなります。
時計業界についてのまとめ
- 時計業界はクオーツショックとスマホの普及によって痛手を受けました。
- 世界全体的に見ると徐々に回復傾向にあります。
- 日本経済が停滞しているため、国内の需要は減少傾向にあります。
- 国内メーカー復活のカギは東南アジアへの進出です。
- 国内メーカーは有力3社の成功に全てがかかっています。